木漏れ陽の中に
のんびり木陰で読書ができればそれだけで幸せです
ちぃちゃん遊ぼう(4)
「お疲れ様、来週も宜しくな」と和之は駅のホームで同僚らと別れ、改札へと向かう。
いつものように和之はエスカレーターを駆け上がる。
エスカレータを降り定期を取り出そうと、背広の内ポケットに手を入れるが、定期入れが見当たらない。体中を手探りしながら改札まで歩くが、定期入れらしいものが見つからない。
改札の前で、再度背広のポケットすべてに手を入れ探すが無い。
鞄の中も探すが見つからない。その時、和之の前に初老の男が立ち、定期入れを差し出した。
「お探しのものは、これではないですか」
和之は目の前に差し出されたチャコールグレーの定期入れに、岩下和之と名前が書かれている定期を確認した。
「どうも、有難う御座います。今、探していたところでした。助かります」
和之はその初老の男性に深々と頭を下げた。
「あなたが、エスカレーターを駆け上がろうとしたときに落ちたようですね」
和之は照れくさそうに、「すみません、階段を見ると駆け上がらないと気がすまない性分でして」
「お若いですね、私からしてみれば羨ましい限りです」
「何かお礼をしたいので、もし宜しければ、僕の行きつけの店がすぐ近くにあるんですけど、いかがですか」
和之は人懐っこい性格で、知合った人を気兼ねなく誘うのである。
「いえいえ、お礼など宜しいですよ、私も先を急ぎます。あなたとはいずれお話しする機会がありますから、その時にでも」
と、初老の男性は改札をそのまま通り過ぎていった。
和之は広げてある鞄の口を閉じながら、あわてて後を追おうとしたが、鞄が自動改札の縁にぶつかり鞄の中身が辺りに飛び出してしまった。

続く・・・

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ちぃちゃん遊ぼう(5)
和之は散乱した鞄の中身を、急いで拾い集め改札をでた。
小走りに駅を出ながら辺りをきょろきょろと見回し、奇妙な事を言う人だなと思いながら、初老の男性を探す。
駅前の交差点を歩くあの初老の男性を見つけた。
初老の男性は、すでに交差点の横断歩道を渡りきり反対側の歩道に着いたところであった。
まだ、信号は青の点滅だった。
「急いで渡ればまだ間に合う」
和之は横断歩道を全速力で駆け抜けようとした。
初老の男性は、振り向き和之を見ていた。
和之は大声で、「すみません、ちょっと待ってください」
その時、和之の目に強烈な閃光が飛び込んできた。
初老の男性は、
「彼にはすまない事をしたが、これから償うとしよう」とざわめく人ごみの中から掻き消えていく。

続く・・・

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ちぃちゃん遊ぼう(6)
和之は思わず両腕で顔を被っていた。その後は意識が薄れながらも、体が重力に逆らって浮き上がっていくのが感じ取れた。
そして深い眠りから覚めたような感覚と心地よさを感じて、やがて和之は瞼を開ける事が出来た。
和之は見知らぬ場所に立っていた。
「ここはどこだろう」とつぶやきながら自分の周りの景色を確認する。
そこは児童公園の入り口であった。
目の前にちっぽけな砂場があり、右側にジャングルジムとその横に連なって滑り台があった。
左側にはイチョウの木が数本植えてありその奥にブランコがあった。
そこに、幼稚園児くらいの女の子がブランコにちょこんと腰掛て、人形を赤ん坊を抱くように抱え、その人形に向かって何か話しかけていた。
周りには人影は見えない、その女の子だけであった。
「どうして僕はここにいるんだ。目の眩む光を見たときは駅前の交差点にいた筈なのに」
和之はここがどこなのか、どうして自分がここにいるのか不思議でたまらなかったが、女の子になぜか話しかけたい衝動に駆られた。
和之はその女の子の元へ歩き出した。
「お嬢ちゃん、ここはなんていう所かな」
こんな幼い子に聞いたって分かるはず無いのにと思いながらも、和之は聞いてみた。
「ちぃちゃんのおうちのちかくのこうえんだよ」
「やっぱりな、こんな答えしか返ってこないよ」
和之は自分の馬鹿さ加減に呆れながら、この女の子としばらく時間をつぶしていようと考えた。
「しばらくすれば、母親が迎えに来るだろう、その母親に聞けばいいや」
公園を出て道行く人を探せば良いはずなのに、和之はこの公園から離れるのが嫌だった。

続く・・・

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ちぃちゃん遊ぼう(7)
和之は女の子に話しかける。
「お名前はちぃちゃんと言うんだ」
「わたし、ちいちゃん、このこ、みなちゃん」
「そうか、そのお人形可愛いね」
「おばあちゃんにいただいたの、いつもちぃちゃんのおそばにいるの」
「そうか、おばあちゃんからの贈りもなんだね」
「いつもおねんねしてるの」
「どうして、おねんねしてるの?」
「いつもおはなししてあげるの」
「おねんねする時にお話してあげるの?」
「ちぃちゃんはママなんだよ」
「そうか、ちぃちゃんはみなちゃんのママでおねんねする前に話してあげるんだね」
「みなちゃん、いまおねんねしてるから、おじちゃん、ちぃちゃんとおにごっこしよう」
和之は時間を忘れて、その女の子と鬼ごっこやら砂場でお城を作ったりと遊んだ。
「ちぃちゃん、おじちゃんのおよめさんになってママになる」
「そうか、それじゃ、ちぃちゃんが大きくなるまで、おじちゃん待ってるね」
「やくそく」と女の子は小さな小指を和之の前に差し出した。
ませた子だと、和之は照れながらも小指を出し指切りをした。
「さて、そろそろお時間なんでなので行きましょうか」
和之は振り返ると、あの初老の男性が立っていた。
「あなたは・・・、なぜ、ここに・・・」
和之は戸惑いながら、記憶をたどる。
しかし、目の前が霞んで、また意識が遠退いていく。

続く・・・

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ちぃちゃん遊ぼう(8)
プルル〜、プルル〜、プルル〜。
電話の呼び出し音が鳴っています。夫からの電話でしょう。
私はリビングから玄関先に置いてある電話機のほうへと向かいました。
私は受話器を取り、「はい、岩下でございます」
「こちらは、緑ヶ丘署の橋本と言います」
「・・・はい、岩下ですが、何かあったのでしょうか?」
「岩下和之さんの奥様はいらっしゃいますか」
「私が妻の千鶴ですけど・・・」
「旦那さんが、駅前で交通事故に遭われまして、緑ヶ丘総合病院に搬送されたところです」
「夫の怪我の具合はどうなんでしょうか?」
「私も旦那さんの鞄からご自宅の電話番号を調べおかけした次第で、ご容態は存じておりません」
「どうも、ありがとうございます、これから直ぐに病院へ向かいます」
私は電話を切ってから、すぐに出かける支度をしました。
「あの予言が当たるのかしら・・・、そんな事はないわ、和之さんの怪我は大した事ないわ」
私は自分に言い聞かせるように、不安ながらも夫の怪我はそれほどでも無いと思う事にしました。

続く・・・

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オリジナル小説を不定期に連載しています。



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