木漏れ陽の中に
のんびり木陰で読書ができればそれだけで幸せです
ちぃちゃん遊ぼう(18)
和之の意識が戻ると、駅前の横断歩道でした。
意識がまだはっきりしていない和之に向かって、ライトバンが突進してきます。
「うわっ」
叫び声をあげ、和之は避けることもできないままライトバンに轢かれたと思いましたが、体はライトバンをすり抜けて行きました。
「おおおお、なんともない、僕はスーパーマンになったんだ」
幽霊になったことを、まだ和之は気がついてない。相変らず自分の都合の良い方へと物事を考えている。
「さあ急いで、家に帰ろう、僕の大好きな千鶴が家で待っている、今日起きた不思議な事を話してあげよう」
和之は、いつもの帰り道を歩いていると、家の近くの交差点で千鶴の軽自動車が信号待ちで停車しているのを見つけた。
軽自動車の前で、和之は運転席に座る千鶴へ手を振るが、千鶴は和之を見ているとは思えなかった。
和之は運転席側の窓をたたこうとしたら、こぶしがすり抜けてしまった。
「すごいぞ、何でもすり抜ける体になったぞ」
と子供みたいにはしゃぎ、そのまま頭をいきおいよく窓へと突っ込む。
和之の体は千鶴をすり抜けて、助手席までとおりに抜けてしまった。
助手席に座ろうとするが、すり抜けてしまって座れない、和之は千鶴に話しかけようと千鶴の顔を見ると、滅多に泣かない千鶴の目から涙がこぼれていた。
「千鶴、どうしたんだ、なにがあった?」
千鶴は何も答えず、セカンドバックからハンカチを取り出して涙を拭いてる。
「泣いてちゃ駄目、きっと和之さんは元気でいてくれるわ、いつものように『千鶴、ごめん、また怪我しちゃった』と、無邪気な子供のようなあの笑顔で迎えてくれるわ」
「千鶴、僕はここにいるよ、聞こえないの?」

続く・・・

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ちぃちゃん遊ぼう(19)
千鶴に和之の声は届きません。
信号がやがて青に変わり、千鶴はアクセルペダルを踏み込み軽自動車を発進させました。
和之はその場に取り残され、呆然と立ち竦んでいた。
「僕は、あの天使が言ったように、死んでしまって、今は幽霊となってしまったんだ」
和之は、やっと、気がついたようです。
これからどこに行こうかと和之は悩んでいましたが、やはり自宅に帰り千鶴を待つことにしました。
和之は家路へとぼとぼとと歩き出しました。
自宅のマンションに着いたころは、すでにあたりは暗くなり、和之はマンションの2階を見上げました。
部屋の明かりがおちているのみると、落ち込んでいる和之をより落ち込ませてしまいます。
いつもなら、どんなに遅く帰っても部屋の明かりが消えていることはありませんでした。
和之はマンションの階段を上ろうとしますが、足がすり抜けて一段さえ上れません。
「どうしたら、いいんだ、部屋にも入れないや」
と和之はぼやきます。
和之は千鶴と二人で見た映画の主人公の幽霊のことを思い出しました。
「あの映画の幽霊は、すんなり階段を上ったり空を飛んだりしてたのに、なぜ、僕は階段さえ上れないんだろう」

続く・・・

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ちぃちゃん遊ぼう(20)
和之は階段の3段目あたりに腰掛けるつもりで腰を下ろしますが、階段をすりぬけ体の半分がコンクリートの階段に埋まったように見えます。
和之はふと足元を見ると、地面から数センチほど自分の体が浮いていることに気がつきました。
「おや、僕の体が浮いている、そうか、今まで歩いていると思っていたのは勘違いだったんだ、ずーと、実はただよって僕はここまで来たんだ、それじゃ、2階まで飛べるんじゃないかなぁ、やってみよう」
和之はあれほど落ち込んでいたはずなのに、そのことに気がつくといつもの笑顔で元気を取り戻した。
和之はその場でスーパーマンのごとく片腕を挙げもう片方の腕を腰の位置で曲げ、ジャンプを繰り返しますが、体は数センチも飛び上がれません。ただ、体が階段に埋まる一方でした。やがて、肩まで階段に埋まり首から上だけ階段に残っています。
(「やっぱり、あほや」作者の声)
和之は埋まった階段の中で腕組みをしながら、
「やっぱり、上手くいかないなぁ〜、なぜ、だろう、体なんかふわっと浮かび上がって、二階なんかすぐに行けるはずなんだがなぁ〜」
と考え込んでいます。
すると、和之の体が徐々に浮かび上がり2階の踊り場まできましたが、和之は首を傾げながらまだ考えています。

続く・・・

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ちぃちゃん遊ぼう(21)
しばらくして、和之は自分の体が踊り場から約50cmほど浮いてる事に気がついた
「おおおお、体が浮いてる、部屋まであと30mくらいだ、やっと帰れるぞ、うれしいなぁ」
和之は体を横に倒し相変わらず、片腕を頭の前に出しもう片方を腰の位置で曲げていました。
しかし、体は前には進みません。
「う〜ん、やっぱり、この格好では飛べないらしい」
和之は、やっと気がついたようだ。
それから、和之は、空中で平泳ぎやクロール、バタフライ、はたまた背泳、犬かき、和之の知る限りの水泳種目を次から次へと披露し始めた。
「だめだ、ちっとも前に進まない、なにかいい方法は無いかなぁ」
和之は空中で横になったまま、頭を腕でささえ何も無い空間を指でとんとんと叩きながら考えはじめました。
「あっ、俺はこのマンションまで歩いてきたんだっけ」
和之は体を起して歩き始めるとすんなり部屋の前まで行けた。そして、マンションの横にある駐車場への緩やかなスロープを見て、
「うわっ、駐車場にまわれば、このスロープを上って歩いてこれたんだ・・・、今更気がついても遅いぞ、和之」
と和之は自分自身を諭した。
それから、和之は玄関の扉をすりぬけ部屋へ入った。部屋の中は真っ暗で、和之は照明のSWを押そうとするが押せない。
「こんな、真っ暗の部屋で、一人で待っていたら、幽霊そのものじゃないか、千鶴が驚いてしまう、どうしよう」

続く・・・

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ちぃちゃん遊ぼう(22)
私は集中治療室の廊下に備えてある長いすに腰かけて、お医者様が来るのを待っていました。
10分程すると、紺色のスクラブを着たお医者様が私の前へいらっしゃいました。
「奥さん、ご主人ですが、心肺蘇生の後、心機能は回復したのですが、呼吸不全のため人工呼吸器を使用しています、今夜もつかどうか・・・、出来る限りの処置はしているつもりです」
私はお医者様の声がだんだんと遠ざかるように聞こえます。
私は和之さんが死ぬ事なんて考えたくないのに、心の奥底から「ついにこの時が来た」と反響し、徐々に大きな声となって聞こえてきます。
「奥さん、大丈夫ですか、他のご家族の方を呼んで下さい、・・・わかりますか」
呆然としている私を、お医者様が私の肩を抱いて、長いすに腰かけさせてくれました。
そして、看護師の方を呼ばれることを私に告げて、お医者様はこの場から立ち去りました。
私の心の中で和之さんとの思い出が溢れ出てきます。

和之さんと初めて出会ったのは、私が高校一年の時サッカー部のマネージャーになった初日でした。
サッカー部の部室で先輩のマネージャーに、心構えとマネージャーの仕事のあれこれと説明を受けていました。その後ろで部員達が和之さんのことを話していました。
「監督は今日休みだ、楽できるぞ」
「バカ、今日は臨時コーチの岩下先輩だよ、あの50mダッシュだけのきつい練習だ、いやだなぁ」
「『伝説の突進』知ってるか、地区大会の準決勝のこと」
「あぁ聞いた、坂本先輩のカウンターアタックで岩下先輩がドリブルだけで決勝点決めた試合だろう」
「ディフェンダー二人を置き去りに、スイーパーとゴールキーパーをかわして、ゴールポストに頭から直撃して脳震盪をおこし担架で運ばれ、次の日の決勝は病院でなぜか生死をさまよっていた話だろ」
「そうそう、普通ならゴールキーパーかわした時点でシュートすればいいものを、そのままの勢いでゴールに向かって突進するなんてね」
「それから、止まる事を知らない『伝説の突進』なんて呼ばれてるもんな」
私はその話を聞いてそのコーチがとても気になりました。
グランドに出てみると、臨時コーチの和之さんがハーフウェーラインからゴールに向かってダッシュしていました。
部員達がくすくすと笑いながら、「また、やってるよ」と言ってました。
その時のがむしゃらに走っている和之さんを見て、なぜか私は好きになってしまったのです。

続く・・・

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オリジナル小説を不定期に連載しています。



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