木漏れ陽の中に
のんびり木陰で読書ができればそれだけで幸せです
ちぃちゃん遊ぼう(28)
緑ヶ丘総合病院の正面玄関に、二人は立っている。
玄関入り口にガードマンが立っていたので、和之はあわてて並木と繋いでいた左手を離した。
それから二人で病院内へ向かって歩き出した。
正面玄関から受付ロビーに向かう途中で、風変わりな一団に出会う。
小さな子供が先頭に立って歩き、右手には真っ赤な旗を持ち、その後ろから、青白い顔したご老人達が約20名ほど、その中には一人だけ、結構可愛い顔した20代くらいのお嬢さんがいる。
小さな小学生くらいの子供が並木にきちんと会釈してから、
「はい、皆さん次は東京タワーに行きます」と言った。
まるで、観光旅行の団体客である。
和之はなぜこんな病院に観光旅行客が来るのか、なぜ子供が引率しているのか疑問に思っていた。
「並木さん、その子と知り合いですか?」
「はい、以前に私の部下をしてました、今は下界観光のツアーコンダクターをしてます」
「天使ってそんなこともやるの?」
「はい、天国と言っても何にもありませんからね、多少の娯楽がないと皆さん暇をもてあましてしまいます」
「うーん、地獄にいる人達も下界にくるの?」
「いいえ、地獄にいらっしゃる方たちは、娯楽より瞑想を行なって無の境地を知り、悟りを開いていただきます、そして仏への道を目指される方もいますよ」
「どこが天国で地獄なのか、僕、訳わかんなくなっちゃった」
和之は左手で顔を被いながら、今までの天国と地獄のイメージを思い浮かべている。
「そんなこと、気にしないで3階の産婦人科病棟へ行きましょう」
と並木はエレベータホールへと歩き出した。

続く・・・

作者からの読者へ

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ちぃちゃん遊ぼう(29)
「ちょっと、待ってください」
そう言いながら和之は並木のあとを追いかけた。
エレベータホールについて、並木はエレベータの階上ボタンを押下した。
それを見ていた和之は、
「並木さんはボタンを押せるんだね、どうやったら物に触れたり押せるようになるの?」
「集中力を高めればできるようになります、あなたも訓練しだいでできます」
並木は和之の性格では当分無理な気がしたが、正直に話して傷つかれ拗ねられるのも困ると思いそう言った。
そして、エレベータの扉が開き、並木は乗り込むが、和之はボタンを押そうと何度も繰り返している。
「岩下さん、早く乗ってください」
和之は扉が開いていることに気がつきあわてて乗り込んだ。
そして扉が閉まり、エレベータのかごが上昇する。
並木はふと隣をみると和之がいなかった。
「困った人だ、エレベータにも乗れないようですね」
並木はエレベータの床をすり抜けて階下へ下りていくと、昇降路の空間に一人浮かんでいる。和之の体はかごをすり抜け置いてけぼりにされたようである。
並木は和之の側まで下りて、エレベータの乗り方をアドバイスした。


和之と並木は3階のナースステーションで、千鶴の病室を確認しその病室へと向かう。
病室にはドアを開けずそのままするりとすり抜けて二人は入った。
個室になっていて、千鶴が白いカバーシーツをかぶせられベットの上で横たわっていた。
そのベットの側で椅子に腰掛け心配そうな面持ちで、和之の母である岩下小百合がいた。
和之はすぐさま千鶴が寝ているベットにかけより、
「千鶴、どうしたの、なにがあったの」
と声をかけた。
「和之、あんたこそ大丈夫か、もう歩けるようになったんかい」
小百合は和之に向かって話しかけた。
「おかぁちゃん、俺が見えるんかい」
「あたりまえだろ!、何馬鹿なこと言ってんだい!、お父ちゃんはどうした!、あんたの付き添いをしてたはずなのに、また、あんたをほっぽって、競馬新聞眺めてるんかい!」
小百合はけたたましい声で、はるかかなたのナースステーションまで聞こえるような大声を出した。

続く・・・

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ちぃちゃん遊ぼう(30)
「おかぁちゃん、僕さ、死んじゃって、幽霊になったらしいんだよ」
「ただでさえ、ぬけてんのに、事故で頭の脳みそも、どっかに置いてきたんかい、それより、この人誰、お医者の先生様かい?」
小百合は入り口に立っている並木に、ぺこりと頭を下げながら和之に聞いた。
「この人は並木さんです、俺の担当の天使さん、これからお世話になるんだよ」
小百合は、椅子から立ち上がり、並木に向かい、
「和之をお願いします、この子は頭はちょっとばかし足りないですけど、気の優しい子ですから、これからもお願いします」
といって頭を下げた。
並木もそれに合わせて会釈をした。
その時、コンコンと音がしてから病室のドアが開きかけた。
看護師の杉山智子が開きかけたドアの隙間から顔を覗かせ、
「岩下のおばちゃん、ここは病院なんだからもう少し声を落としてよ、ほかの患者さん達に迷惑になるからさあ」
「ごめん、ごめん、和之が、馬鹿なこと言うもんでね、ちょっとばかし、声が大きくなっちまったよ」
「和ちゃん?、和ちゃんはICUでしょう?」
「智子ちゃんもおかしなこと言って、ほら、そこに和之がいるでしょう」
と小百合は和之の方を向きながら、顎をくいっと上げた。
「えー、どこ」
智子は病室内を見わたすが和之の姿は見えない。
「おばちゃんこそおかしなこと言っちゃってどうしたの、和ちゃんなんかいないよ」
「和之は、そこに、いるじゃない」
と今度は指差しながら小百合は言った。
「おばちゃん、和ちゃんが大変なことになって、それに、ちぃちゃんも倒れちゃったんだから、おばちゃんが今はしっかりしないと、おかしなこと言ってないでね、それじゃ私仕事だから、もう大声は出さないでね」
智子はそういいながら、再度病室を見渡してからドアを閉め、ナースステーションへ戻った。
小百合は、狐に化かされたような顔をして智子が閉めた病室のドアを見つめていた。
そして、しばらくったてから、和之の方を向き、
「和之、智子ちゃんまで、目がおかしくなっちゃったよ」
「おかぁちゃん、智子ちゃんの目はおかしくないよ、僕の姿は、おかぁちゃんしか見えてないよ」
「並木さんにだって、この馬鹿息子見えてるじゃないか、馬鹿にするんじゃないよ、ねぇ、そうですよね、並木さん」
「いえいえ、私達、二人の姿は、奥さんだけに見えてるようです」
「あら、並木さんまで」

続く・・・

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ちぃちゃん遊ぼう(31)
「おかぁちゃん、さっきも言ったけど、僕は幽霊で、並木さんは天使なの」
小百合は和之がしゃべっていることを無視して、
「並木さん、この子の、頭、元に戻りますか?、やっぱり、事故のせいですか?、これでも父親となる身なんです、このままじゃ、ちぃちゃんが不憫で・・・」
並木は、自分の声を落としながら、
「奥さん、驚かれないようにおねがいします、私は天使で和之さんをお迎えにやってまいりました、いささか止ん事なきことがありまして、天国に連れて行く前に、和之さんに手伝って頂く事があり、こちらにやって参りました」
「はぁー、それで、ほんとに、この子は幽霊なんですか?」
「はい、私も、天使であり、鬼でもあるんです」
と並木は言いながら、自分の姿を、3メートルほどの鬼の姿に変身させ、今にも小百合を頭からかぶりつくように真っ赤な口を開けた。
小百合は、「ぎゃー」と悲鳴をあげて、そのまま後ろに飛びのいたが、後ろの壁にしたたか後頭部をぶつけてしまい、そのまま気を失って、ずるずると体を横たえてしまった。
「あっ、おかぁちゃん、大丈夫かい」
と和之は小百合の元へ駈け寄り、小百合の体を起こそうとするが、すり抜けてしまって思うように出来なかった。
「並木さんも人がわるいなぁ、突然、そんな姿になったら、いくら、おかぁちゃんでも、びっくりしちゃうよ」
和之は振り返りながら言った。並木は元に姿に戻り、
「これならば、信じていただけると思ったのですが、いささかやりすぎましたか」

続く・・・

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ちぃちゃん遊ぼう(32)
和之は、小百合のほほを叩きながら、
「おかぁちゃん、おかぁちゃん、おきなよ」
と起こそうとするが、和之の手のひらは小百合のほほにめり込むだけで、効果がなかった。
そんな和之の肩を叩き、並木はこれからの事を説明しはじめる。
「岩下さん、奥様にはすまない事を致しましたが、丁度、邪魔されず静かにお話しができます」
「そうだね、おかぁちゃんがいたら、うるさいからね」
和之は自分の母親が気絶してるのに、あっさりと言った。
「その前に、あなたを付け狙っている天使のことを簡単に説明しておきます、彼なんですが、名前はジャン・クロード・バッタイチだったか・・・、すみません、ラストネームは、はっきり覚えておりません」
「僕は映画が好きだから、その名前は良く知ってる、でも、それって・・・」
和之が疑いのまなざしで見ているので、並木は咳払いをしながら、
「すみません、私もフルネームで名前を覚えていません、しかしジャンだけは確かです」
と素直に認めた。
「そうですか、外人さんなんだね、並木さんには悪いけど、やっぱり、天使は外人さんのほうが似合うよね」
「いいえ、れっきとした日本人です」
「なんだ、それ」
「天使になるとき、自分の名前や姿かたちは自己申告ですので、自由なんです、私の場合は生前のままですが、殆どの者が、憧れた人の名前を選んだり、その容姿に化けます」
「あはは、それじゃ、彼はその映画俳優に憧れていたんだ」
「きっと、そうでしょう、・・・この話しは次にするとして、そのジャンですが、私が推測すると、たぶん、彼は千鶴さんの意識下に潜んでいると思います」
「どうすれば、ジャンを見つけ出すことができるの?」
「千鶴さんの夢の中に入り、ジャンを探しましょう」
「そんな事が出来るんだ」
「はい、岩下さんも、一度、千鶴さんの夢に入ってます」
「えっ、いつ?」
「あなたが、事故に遭われたときです、あなたは、天国の受付に来られず、千鶴さんの夢の中へと吸い込まれていきました」
「あっ、あの公園、あの小さな女の子、思い出した、千鶴だ!」
「そうです、お二人が初めて出会った場所です、あの時に何もなければ、こんな事は起きませんでした、さぁ、千鶴さんの夢の中へ急いで行きましょう」
「でも、おかぁちゃんを、このままにしておけないよ」
「今の叫び声で、あの看護師さんがいらっしゃると思われますから、そのままにしておいて、急ぎましょう」
そして、並木は和之の腕をつかんだ。
その瞬間、二人は淡い光の雲のようになり、ベットで横たわる千鶴の体へ、すーと吸い込まれるように入っていった。

続く・・・

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オリジナル小説を不定期に連載しています。



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