木漏れ陽の中に
のんびり木陰で読書ができればそれだけで幸せです
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FC2Blog Rankingどうせ夢見るなら、総合トップを目指せ! そんなアホに愛の手を
恋のはじまり
「あっ、ライター忘れちゃった」
お昼前の喫煙室で、新井美智子がそう言った。
俺は、自分のZippoで火を差出した。
「ありがとう、やっぱり、伊藤さんは優しいんだよね」
タバコケースからバージニア・スリムを一本取り出し、厚めの唇に咥えながら言った。
「伊藤さんは、いつも無口で怖い顔してるけど、さりげなく気をつかってるの、私、知ってるのよ」
俺は、無口ではないが、ただ、パートのおばさんたちの会話に溶け込めないだけだった。
それに、たかが、火を貸しただけでやさしいも何もありゃしねぇ。
「ただ、火を貸しただけだ。君は女優のアンジェリーナ・ジョリーに似ているな」
「えぇ、嬉しい、私がきれいだってこと?」
「きれいとかじゃなくて、俺の好きな女優に似ているだけだ」
「あはは、突然、告って、びっくりしちゃう」
「別に、告白したわけじゃない」
「きにしないで、二人だけの秘密にしておくから、でも、伊藤さんから告白された、うれしいな」
「おいおい、ちがうぞ、勘違いしないでくれ」
そのとき、どっとパートのおばさんたちがやってきた。
俺はタバコの火を消し、灰皿に投げ込み、喫煙室から出て行った。

半年ほどして、また、喫煙室で、美智子と二人っきりになった。
「私、ダイエットしようかなぁ、伊藤さんはスリムな方が好きなんでしょう?」
「俺は、めちゃくちゃ太っていなければ気にしない。新井さんくらいならまだ許せるよ」
「えぇっ、それってやっぱり太ってるってことなの?今日からダイエットするわ」
俺は否定も肯定もせずに黙っていた。
「ねぇ、10キロぐらい痩せたら、ご褒美に何かしてくれる?」
俺は、フランス料理ぐらいならつれって行ってもいいかなと考えたが、
「あはは、だめだよね、そんなことは旦那に言えって事でしょう」
そう、美智子が言ったので言葉を飲み込んでしまった。

忘年会で、いつもとは違うきれいに着飾った美智子がいた。
きれいだった。
忘年会もおひらきとなり、二次会へ流れていく人たちが、あちらこちらで集まりだした。
俺は、最愛の人を亡くしたばかりで、二次会まで付き合う気はもうとう無かった。
美智子が、俺のそばに駆け寄り、
「伊藤さん、私達のグループは、カラオケだって、女だけじゃつまらないから、伊藤さんも来てよ」
「俺は遠慮しておく、一人で酒を飲む方が性に合ってる」
「そんな、寂しいこと言わないで、みんなでいるほうが楽しいわよ」
俺の腕を引っ張り、強引にみんなのいるところへ連れて行こうとする。
「やめろ、俺は行かない。いつものショットバーで飲む方が気が楽だ」
と美智子の腕を振り払った。

バーのカウンターで、俺一人、バーボンをロックで飲んでいた。
カランカランと、ドアに付けられた鐘とドアの閉まる音がした。
いつもの常連がまた一人、来たのだと思った。
しばらくしても、誰も座らない。
カウンターしかないこの店に他の席は無い。
妙だと思い、後ろを振り返ってみると、そこに美智子が立っていた。
「私、来ちゃった」

続く・・・
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恋のはじまり 2
「どうしてここが?」
「以前に佐藤君が、伊藤さんは週末になると一人で飲んでる店があるって聞いたの、それでこの店の事を教えてくれたの。」
俺は、あのおしゃべりめと舌打ちをした。
「そこに、つっ立てるのは、店の迷惑になるから、座りなさい」
「いいの?」
「君が酒を飲みたいのなら、俺は構わない」
美智子は、ファーの付いたロングコートを脱ぎ、俺のそばの席に腰かけて、ひざの上にバックとコートを置いた。
「そのコートを、貸しなさい」
俺は、美智子からコートを受け取り、店の隅に準備されているハンガーに掛けた。
「私ね、こんなとこ、初めてなの、なんだか、わくわくしちゃう」
「それより、酒は飲めるのかい?忘年会ではソフトドリンクだけだったが」
「大丈夫よ、みんなから、新井さんは酒豪でしょうって言われたから、飲めないふりをしたの。でも、何を注文したらいいの?わかんないから、伊藤さんの勧めるカクテルでいいわ」
俺は、マスターにマルガリータをお願いした。

美智子は饒舌だった。
俺は、グラスの氷がとけて、淡い琥珀色に変わり、ゆるやかに流動する液体をじっと見つめていた。
会話として成り立たなくても、美智子は話し続けた。
どれほどの時間が、過ぎ去ったのか、俺にはわからない。
「おい、伊藤聡史、聞いてんのか!」
「聞いていない」
「嫌なやつ!会社のみんなに、私に告ったこと、ばらすわよ」
「いいよ、かまわない」
「えっ、そんな・・・」
「俺は、君に惚れたかもしれない。君の明るさがとても心地いい。」
「わたし・・・」
俺は、美智子の言葉を、唇でふさいだ。
美智子は、ゆっくりと瞼を閉じた。

俺は、グラスの中で、ほとんど融けた氷を見つめながら、
「俺は、優しい男ではない、楽しい男でもない、君が俺のことを好きになったとしても、何も変わらない。もう、愛を失うことに耐えられない。だから、このままの関係で、何も望まない。ゆるやかに、氷が融けていくように、君への愛は、俺の心にしみ込んで行くだろう」

----あとがき----

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恋のはじまり ケース 1(前編)
「課長、お疲れ様です。先に一杯頂いてます」
佐藤がすでに、俺のいつもの席に座っている。
俺は、コートを掛けながら、
「お疲れ、やけに、早いな」
「はい、住生の聴き取り調査がわりと早かったので、現場から直行しました」
俺は、佐藤の横に座り、マスターに、「カミュ エクストラエレガンス」を注文した。
マスターからグラスを受け取り、両手で温めながらコニャックの香りを楽しんだ。

「それで、会社では言えない相談とはなんだ」
「あの・・・、実は品質管理の三宅さんのことなんですが」
「三宅?」
「はい、去年の夏のプロジェクトで担当だった人です」
「ああ、あの子か、その子がどうした。俺に恋愛の相談は無理だぞ」
俺は、社内の色恋には干渉したくなかった。
「課長に、お願いしたいのは、恋愛の相談じゃなく、三宅さんに諦めさせてほしいんです」
「なにを、諦めさせろと?」
「とても、言いにくいことなんですが・・・、例えばですよ、好きな人が別の人を好きで、近いうちに告白したいと悩んでいるとしたら、課長の場合はどうします?」
「だから、俺に恋愛に関して聞くなと言っただろう」
「でも・・・、課長に関係しているんです」
「俺になんの関係があるんだ」
「あの・・・、三宅さんが・・・、好きで・・・、課長を・・・、僕に・・・、セッティングを・・・、チョコレート・・・、告白・・・」
「なにを言ってるのか、さっぱり、わからないぞ」
佐藤は、俯いたまま、黙ってしまった。
俺は、面倒くさくなり、この場を早めに切り上げるつもりで、コニャックを一気に喉に流し込んだ。

続く・・・

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恋のはじまり ケース 1(後編)
「君の相談とお願いというものは、わかった。しかし、情けない」
俺は、スーツの内ポケットから、名刺入れとペンを取り出し、そして、名刺入れから名刺を一枚ぬきとり、その裏に、この店の簡単な地図と店の名前と電話番号、日時と俺の携帯の番号を書き入れた。
俺は佐藤にそれを手渡しながら、
「俺は、君が思っているほど、良い人間ではない。三宅君をどう扱うかは、俺の勝手だ」
佐藤は、半べそをかきながら、名詞を受け取った。
「これを、三宅君に渡してくれ」
そして、マスターへ、
「今日の勘定は、この人から貰って下さい。美味いコニャックが台無しだ」

俺は、約束の時間より30分ほどわざと遅れて、店に入った。
すでに、三宅美紗はカウンターの真ん中を陣取り、マスターと楽しげに会話している。
美紗は、すでに何杯かのカクテルを飲んでいるようだった。
頬がほんのり赤みをおびていた。
俺は、美紗の横に座り、
「それじゃ、二人でカクテルで乾杯でもするか」
美紗は、マスターへシェリーをたのんだ。
めったに表情を変えないマスターが、俺のほうに向かって、笑みを浮かべた。
「俺は、もうひとつの意味で、ブルームーン」
そういうと、マスターから笑みが消えた。
美紗も戸惑いの表情を隠せないでいた。
「君はお酒の意味を、知っているようだね」
「・・・はい、伊藤課長がカクテルやお酒を大好きだと知ってから、いろいろ勉強しました」
「それなら、話すことない。君は、ここにもう少しいなさい。俺は失礼する」
「マスター、俺は帰るから、ブルームーンはいりません。シェリーだけお願いします。それと、これからの勘定は俺のつけにして下さい」
マスターは黙ったまま頷いた。

俺は、店を出て、佐藤に電話した。
「君の出番だ。三宅君が一人で店にいる。たぶん君は近くにいるんだろ。早く、あの店に行きなさい」
それに、もうひとつ、付け加えた。
「店で、君はポートワインを注文するといい、それを三宅君に勧めなさい」


----あとがき----

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