木漏れ陽の中に
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1-1 海の見える家
木々の間から木漏れ日がきらきらと輝いている。清里崇は坂の頂上を見上げていた。
坂道の両側には桜の木々が頂上まで続いている。坂の三割ほど歩いたところで、清里は立ち止まりスラックスの後ろポケットからハンカチを取り出し、うっすらと汗がにじんだ額をぬぐった。その時だった、母親に手を引かれこの坂道を歩いたことを思い出した。
「あの日も暑かったな」清里の唇から吐息のように漏れた。
あれから28年の月日が流れ、すでに母親と同じ年になった。妹の由紀子はやっと独り立ちが出来るぐらいの乳飲み子で、母親の背におんぶされ肩に頭をもたれかけ寝ていた。
清里は振り返り、坂道の途中で遠い過去を思い出そうと桜の並木の入り口付近に視線をやり、そして静かに目を瞑った。

8歳の頃に初めてあの家に訪れ、そのまま乳飲み子の由紀子と俺は置いてかれ、正気だった母を見たのが最後の日だった。
母が「たかしちゃん、このおうちがおばあちゃんの家だよ」とレンガ造りの古ぼけた二階建ての洋館を目の前にして言った。
庭には、アヤメが咲いていた。家と庭の周りは高い木々に囲まれていたけれど、裏庭は視界が広そうだったので、「むこうに行ってもいい?」と俺は裏庭の方向を指差し、母に聞いてみた。
「いいわよ、でも、呼んだらすぐ戻ってきて頂戴ね」母は優しく微笑んで許してくれた。
俺は「うん」と頷き一目散に裏庭に向かって駈けた。
裏庭は一面が青々とした芝生に覆われて小高い丘のようになって、その丘の頂点まで登ると木立の向こうに海が広がっていた。
その時、海が見えたことがとても嬉しく、はしゃいで「海だ、海だ」と叫びながらジャンプを繰り返していると、足がもつれて丘から転がり落ちてしまった。
俺は膝をすりむいてしまったけれど、痛みは海が見えたことの嬉しさであまり感じなかった。無性に嬉しくて母に海が見えることを告げたくて、すぐに立ち上がり玄関に向かい駈けていった。
玄関の扉は開いていて、奥の部屋から母の声が聞こえたのでその部屋に飛び込んでいくと、母は妹の由紀子を胸に抱きしめ泣いていた。テーブルの向こう側の椅子に和服を着た白髪の老婆が座っていた。
俺は母が泣いているのを見てその老婆がとても怖い人に思え、その場に立ち竦み身動きできないでいた。母は俺のことに気づき「たかしちゃん、この人がおばあちゃんよ、きちんと挨拶できるわよね」と涙をぬぐいながら俺に挨拶するように促した。
白髪の老婆が険しい顔つきで俺を見ているので「きよさとたかしです」とか細い声で俺はなんとか声を出す事ができた。その老婆は、ゆっくり椅子から立ち上がり、俺の方に歩み寄り、俺の膝をみて「血が出ていますね、痛くはありませんか、消毒しなければいけませんね」とそのまま部屋から出て行ってしまった。
俺はすぐに母の傍に駆け寄り「おかあさん、ないてたの、いじわるされたの」と言った。
母は「大丈夫よ、心配しないで、おばあちゃんが優しくしてくれたから、とても嬉しくて泣いてしまったのよ」
俺の服についている芝生の葉っぱをひとつずつ摘みながら、それをテーブルに置き、他に傷はないかと探している様子だった。
「たかしちゃん、他に痛いところ、あるかな」
「ぼく、つよいもん、おとうさんにおこられてもいたくない、このぐらいへいきだよ」と強がりを言った。
本当は血が出ていることに気がつかず痛みを忘れていただけであった。膝の擦り傷を見ていると痛くて泣きたくなっていた。でも、今泣いてしまうと母がとても悲しむ気がして「痛くなんかない、痛くなんかない、ぼくは泣き虫じゃない、だから、泣かない」と心の中で何回も呪文のように念じていた。
「たかしちゃんは強い子、いつも、おかあさんを守ってくれた」とまた母の目から涙がこぼれ落ちた。
「この椅子にお掛けなさい」
振り向くと、いつのまにか白髪の老婆が薬箱を抱え立っていた。俺は言われたとおり椅子に腰掛けたが、老婆が怖くて顔を正面から見られずうつむいたままだった。その老婆は俺の前にひざまずき薬箱から脱脂綿と消毒液を取りだし、脱脂綿に消毒液を数滴たらして膝の傷口の周りを丁寧に拭いている。
俺はきつい消毒液の匂いの中から懐かしい香りを見つけ「そうだ、もうしなくなったけど、おかあさんのにおいだ」と心の中でつぶやいた。
母は匂い袋に栴檀の香りを包みいつも身につけていた。それがいつの頃か覚えてないが母からその香りが消えていた。
栴檀の香りが緊張していた俺の体と心をほぐしてくれたおかげで、俺は少しだけ顔を上げ、その老婆の顔を見つめる事ができた。目尻のしわを除けば、母とそっくりな大きくて優しそうな目だった。
俺が顔を見つめている事に気がついたのか、その老婆も俺の目を見つめた。怖さはなくなっていたけれど見つめていたことが恥かしい事に思えて、また、うつむいてしまった。
「はい、終わりました」と老婆は言い、脱脂綿やら軟膏等をゆっくり手際よく薬箱にしまい、薬箱を抱え部屋を出て行った。
「おかあさん、おかあさん、あのおばあさん、おかあさんとおなじにおいがした」
老婆の姿が消えたのを見計らい、すぐに俺は母にそう告げた。
「そうね、おかあさんの匂い袋はおばあさんから頂いたものよ、おかあさんもあの匂いがすきなの、たかしちゃんも好きでしょう」
「うん、おかあさんのにおい、いちばんすきだよ」
いつのまにか、母の顔から涙が消え、いつもの優しい笑顔が戻っていた。
「おばあさんはおかあさんのおかあさんなの、たかしちゃんは、おばあさんを好きになってくれるよね」
俺はすこし返事に困ってしまった。
「うん、すきになる・・・」
嘘をついていると思いながら、母がまた泣いてしまうのではないかと無理して笑顔で言ったけれど、やはり、言葉が途切れてしまった。
「おばあさんは、少し怖いところもあるけど、すごく優しくて、たかしちゃんとゆきちゃんが大好きなのよ」と俺の気持ちを察してか母はそう言った。
「・・・、うん、わかった」
「おばあさんとなかよくしてね」
母は、俺の手を取り「たかしちゃん、おかあさんはお出かけしなければいけないの、ゆきちゃんとふたりで、このおうちで待ってくれるわね」とぎゅっと握りしめた。
俺は、いつもの留守番とは違う気がして不安になり「ここでまつの、おうちでお留守番するほうがいい」と言ったが、母は握りしめる手をほんの少し強めて「すぐ、帰ってきます、ゆきちゃんが寝ているうちにお出かけしたいの、ゆきちゃんが起きるころには帰るから、それまでたかしちゃんがゆきちゃんを見てくれたら、おかあさん、とても、嬉しいな」
母は微笑みながら言うが、俺はその笑顔がとても淋しく感じた。
「はやくかえってきて、ゆうちがないたら、ぼくもがまんできなくなっちゃうよ」
あの頃の俺は妹の由紀子を「ゆうち」と呼んでいた。
「ゆきちゃんが起きるまでには帰ってきます、約束」
母は、右手の小指を俺の目の前に差し出し指切りを求めた。
俺も右手の小指を母の小指にからませて「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのうます」とふたりで唱えながら約束を交わした。
それから俺は、あの老婆のことを尋ねてみた。
「あのおばあさんは、ぼくのおばあちゃんなの」
「そうです、たかしちゃんのおばあちゃんよ」と母は答えた。
「ぼくにもおばあちゃんがいたんだ、でもね、おとうさんが、おじいちゃんとおばあちゃんは、しんだからいないといったよ」
親父は俺と由紀子をこの家に連れていく事を許してくれなかったそうだ。俺が高校生になってから祖母が話してくれたが、それが真であるかは、それを知る者はすでに他界しているため聞く術はない。
「おじいちゃんは、たかしちゃんが生まれる前に死んじゃったけど、おばあちゃんはたかしちゃんに会いたい・・・」と母は言いかけて、俺から視線をずらし部屋の入口に立っている祖母を見た。

続く・・・
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